心筋炎について
心筋炎とは
心筋炎とはウイルスや細菌、真菌などの感染により心臓の筋肉に炎症が起こった状態です。感染症以外にも自己免疫性、アレルギー性、薬剤性などがあります。原因として多いのはウイルス性になります。
俳優の志尊淳さんが2021年に急性心筋炎になり、ICUに入室されたことを公表されていました(その後無事社会復帰されています)。心筋炎にも重症度があり、軽症のものは自然軽快しますが、重症のものは劇症型心筋炎といわれており、急激に全身状態が悪くなり、全身の循環が維持できなくなり、志尊さんのようにICU管理が必要になる恐ろしい病気になります。
劇症型心筋炎の場合は、強心剤の点滴や人工呼吸器を使用しても全身状態が維持できなくなり、経皮的心肺補助装置(PCPS:コロナ禍でエクモとして広く知られるようになりました)を装着し、心臓機能の回復を待つ形になります。
年齢・性別を問わず、健康な人でも突然発症する可能性がありますが、心筋炎になりやすい体質や心筋障害を起こしやすい遺伝的な要因があるのではないかと言われています。
心筋炎の症状
半数以上で発熱や関節痛などの風邪症状を認めます。また嘔吐や下痢などの消化器症状を伴うこともあります。通常は、風邪症状が出現してから数日後に心臓関連の症状(呼吸困難や動悸、胸痛、失神など)が出現しますが、前述のように急速に症状が出現し、時間単位の経過でショック状態や心停止に至る劇症型心筋炎も存在します。重症化する予測は困難であり、心筋炎を疑った場合は、総合病院での注意深い経過観察が必要になります。
心筋炎の原因
ウイルス性多く占めますが、薬剤、自己免疫性など、多岐に渡ります。
2019年以降世界的な問題になっているCOVID-19ですが、Covid-19-Research networkによると、COVID-19による心筋炎はおおむね0.01%(171481人中256人)、mRNAワクチン含めた複数のCOVID-19ワクチンに関するメタ解析では、ワクチンによる心筋炎の頻度は100万か回投与あたり2~3人と報告されています(参考文献:J Am Coll Cardiol 2021;77:3037、Mol Ther2021;29:2794-2805)。
心筋炎の診断
診断は採血検査、心電図検査、心臓超音波検査、心臓MRI、心臓カテーテル検査による心筋生検等があります。
心筋炎の治療
ウイルス性の心筋炎に関しては、急性期にウイルスの特定が難しいことに加え、ウイルスそのものを排除したり治療する、抗ウイルス療法が確立されていないのが現状です。このため合併している不整脈や心不全、呼吸不全などを補助する全身管理を行い、その間に自己免疫によって、ウイルスによる感染症状がおさまるのを待つ形になります。
劇症型心筋炎では、経皮的心肺補助装置(PCPS)や、PCPSの使用が長期化する場合は補助人工心臓(VAD)が使用されます。
一部の心筋炎に関しては(好酸球性心筋炎など)、ステロイドの使用が有効とされていますが、全身管理がまず基本になります。
心筋炎を疑うには
まず心筋炎自体はまれな病気になります。1年間の罹患率は100万人あたり22人という統計があります(参考文献:Lancet 2015;386:743-800)。一般の方にはなかなか馴染みがない病気かもしれません。
風邪症状が初期症状になることがほとんどです。もしその後に胸に関する症状(息切れ、激しい動悸、胸痛、失神)が出た場合は、早めに受診しましょう。経過が非常に重要になってきます。